熟年離婚(長年連れ添った夫婦の離婚)が近年増加傾向にあります。統計上も、婚姻期間20年以上の夫婦による離婚は全体の約4分の1を占めております。また、経済的な不安や将来のお金の問題は熟年離婚の主要な原因の一つとも言われており、その中でも年金の取り扱いは非常に重要な課題です。
いわゆる「定年離婚」とも呼ばれ、退職後の生活設計を巡って離婚に踏み切るケースも見られます。こうした熟年離婚で離婚後の生活資金として最大のポイントとなるのが年金です。特に、企業年金(会社が従業員の退職後に支給する年金)は老後資金の柱となるため、その扱いは熟年離婚を考える上で見過ごせません。
本記事では、熟年離婚における企業年金の取り扱いについて、分割方法や手続きのポイントを専門家の視点から丁寧に解説します。離婚協議書や離婚給付契約公正証書の作成を通じて、将来の年金受給を確実にする方法についても触れていきます。
熟年離婚と企業年金の基礎知識
熟年離婚で問題となる年金には、大きく公的年金(国民年金・厚生年金)と私的年金(企業年金など)の二種類があります。
企業年金は公的年金を補完する制度であり、離婚時には夫婦が築いた財産として財産分与の対象となり得ます。
ただし、企業年金はすべての会社員が持っているわけではなく、主に厚生年金に加入している正社員などで企業が独自に制度を設けている場合に限られます。まずは企業年金とは何か、その種類や性質について理解しておきましょう。
企業年金とは
企業年金とは、企業が従業員のために用意する私的な年金制度です。従業員が退職した後、一定の年齢から定期的に年金が支給される仕組みで、公的年金(国民年金や厚生年金)の「上乗せ」として位置づけられます。
日本の年金制度は三階建てに例えられますが、企業年金はその中の3階部分(私的年金)に当たります。企業年金への加入は法律上の義務ではなく、各企業が任意で制度を運用しています。
企業年金には、あらかじめ給付額が決まっている確定給付企業年金(DB)と、拠出額のみ確定していて運用結果によって給付額が変動する企業型確定拠出年金(DC)などの種類があります。いずれも老後の生活資金を充実させる役割を持っており、企業に勤める人にとって厚生年金に加えた重要な退職後の所得源となります。
企業年金と退職金の関係
企業年金は企業による退職給付制度の一つであり、その性質は「分割して受け取る退職金」と言えます。本来、一時金として支払われる退職金を年金形式で分割して受け取るため、退職金の一種と考えることができます。
そのため、企業年金は将来受け取る予定の金銭的利益であり、夫婦が婚姻期間中に積み立てたものであれば、離婚時には夫婦の共有財産として財産分与の対象となります。言い換えれば、企業年金も他の預貯金や不動産などと同様に、熟年離婚時に公平に分けるべき重要な資産なのです。
ただし、企業年金は退職時に初めて具体的な受給額が確定する面もあるため、離婚のタイミングによっては評価や分割方法に注意が必要です。
熟年離婚で企業年金が重要視される理由
熟年離婚では夫婦ともに定年退職や年金受給の時期が近いため、退職後の生活資金が最大の関心事となります。
企業年金は公的年金だけでは不足しがちな生活費を補う重要な収入源です。
特に長年会社勤めをしていた配偶者がいる場合、その企業年金の有無や額が離婚後の生活水準を左右しかねません。妻(または夫)が専業主婦(主夫)として家庭を支えてきたケースでは、自身の名義で企業年金を持っていないことも多く、相手の企業年金や退職金から適切な分け前を受け取れるかが老後の安心に直結します。
実際に、30年以上専業主婦だった妻が夫の定年退職直後に離婚する場合、夫が受け取る多額の退職金や企業年金をどれだけ分与してもらえるかで、その後の生活が大きく左右されるでしょう。
こうした理由から、熟年離婚を検討する際には企業年金を無視せず、他の財産と合わせて慎重に取り扱う必要があります。
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熟年離婚における企業年金の分割方法
公的年金(厚生年金)には法律に基づく「年金分割制度」がありますが、企業年金は法律上の年金分割の対象外です。しかし、婚姻中に積み立てられた企業年金は夫婦の共同財産であるため、離婚時には財産分与の話し合いで分割を検討する必要があります。ここでは、企業年金を離婚時に分け合う具体的な方法と、その際の留意点について説明します。
法定の年金分割との違い
日本の年金分割制度では、離婚時に厚生年金の保険料納付記録を夫婦で按分(最大2分の1まで)できる仕組みがあります。しかし、この制度はあくまで公的年金(厚生年金)のみが対象で、企業年金は含まれません。
つまり、企業年金には法律に基づく自動的な分割制度がなく、夫婦間の合意や裁判所での判断によって財産分与するしかないのです。熟年離婚の際、公的年金については離婚後に年金事務所で所定の手続きを踏めば分割できますが、企業年金の分配については当事者間の協議や調停で決めるべき事項となります。
公的年金は制度として相手に受給権を移転できますが、企業年金は制度上それができないため、離婚時の取り決めが非常に重要になります。なお、話し合いで折り合いが付かなければ、家庭裁判所での調停・審判によって企業年金を含む財産分与の取り決めがなされることになります。
企業年金を財産分与する方法
企業年金を分割する際は、まず離婚時点でのその企業年金の評価額を算出し、その価値に相当する額を他の財産と合わせて調整する方法が一般的です。例えば、夫が企業年金の加入者で妻が加入していない場合、夫の企業年金の現在価値を専門的な計算式で算出し、妻にその半分相当を他の資産(預貯金や不動産など)で補う形で分与することが考えられます。
夫婦双方が企業年金に加入している場合には、それぞれの企業年金の評価額を算出し、差額を調整する方法で公平を図ることになります。資産全体に占める企業年金の評価額の割合を算出し、それを財産分与に反映させるイメージです。
また、退職が間近で企業年金の具体的な受給見込み額が判明している場合、その将来受給額を夫婦で折半する合意をし、将来実際に年金を受け取ったときに一定額を相手に支払う方法もあります。
退職金が離婚時に支給される場合には、その金額も含めて財産分与の対象となります。ただし、将来の支払いを約束させる場合は、その約束を確実に履行できるよう公正証書にしておくことが重要です。
原則として離婚時に清算することが望ましいですが、どうしても分割払いとせざるを得ない場合には、強制執行力を持たせる工夫が欠かせません。
専門家に相談して適切に分割
企業年金の評価額算定や分割割合の決定は高度な専門知識を要するため、離婚を専門に扱う行政書士など専門家への相談が有益です。企業年金の制度によっては、現在の積立額や将来の受給見込み額の算出が複雑になることがありますし、運用状況によって将来額が変動する場合の取り扱いも検討しなければなりません。
また、熟年離婚では他にも不動産、預貯金、保険、退職金など分けるべき財産が多岐にわたるため、全体のバランスを見ながら企業年金部分の適正な配分を考える必要があります。専門家に相談すれば、見落としを防ぎつつ、公平で納得のいく財産分与案を作成する手助けとなるでしょう。協議離婚を円満に進めるためにも、第三者の視点を取り入れることは有効です。
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熟年離婚の企業年金分割の手続きと注意点
企業年金を離婚時に分けると決めた場合、その具体的な手続きや注意点についても理解しておくことが大切です。公的年金分割とは異なり、企業年金の分割には夫婦間の合意内容を文書にまとめたり、公正証書化したりといった手間が必要です。ここからは、企業年金を巡る分割の手続きや注意すべきポイントを解説します。
評価額の算定と情報収集
企業年金を財産分与に含めるには、まずその評価額を算定する必要があります。企業年金の種類によって評価方法は異なりますが、企業から交付される年金加入期間や積立額の証明書類、退職時にもらえる見込み額の通知書などがあれば重要な情報源となります。
確定給付型企業年金であれば将来受給額の現在価値を計算し、確定拠出型であれば現時点の積立残高を把握することが基本です。夫婦間で情報格差がある場合には、相手方の協力を得て資料を集めることが必要になります。
必要に応じて企業の人事担当部署に問い合わせることも検討しましょう。また、評価額の算定には経済情勢や利率も影響するため、専門家の知見を借りることでより正確な評価が可能になります。
離婚協議書への明記
企業年金の分割について夫婦で合意できたら、その内容を必ず離婚協議書に書面で残しましょう。口頭の約束だけでは後々「言った・言わない」のトラブルになる可能性が高いためです。
離婚協議書には、企業年金に相当する金額をどのように分けるかを明確に記載します。例えば、「夫〇〇の企業年金について、婚姻期間中に相当する部分の評価額△△円を財産分与として妻□□に支払う」など具体的な文言を盛り込みます。
また、支払い方法(離婚時に一括で支払うのか、年金受給開始後に分割で支払うのか)や支払い期限についても取り決めておくと安心です。離婚協議書を作成しておけば、後日万一約束が履行されない場合の交渉や法的手続きの際にも有力な証拠資料となります。
公正証書で強制執行力を確保
離婚協議書で合意した内容、とりわけ将来の支払いを伴う約束については、公正証書にしておくことを強くお勧めします。公正証書とは、公証人が法律に従って作成する公的な文書のことです。
金銭の支払いに関する取り決めを公正証書化すると、相手が支払いを怠った場合に直ちに強制執行(給与差押え等)を行うことが可能になります。企業年金に関する支払い約束も公正証書にしておけばより安心です。公正証書を作成する際には手数料や手間はかかりますが、強制執行力という大きな担保を得られるため、熟年離婚で金銭の取り決めをする場合には作成が推奨されます。
行政書士などの専門家であれば離婚給付契約公正証書の文案作成や作成手続きの支援を行っており、専門家の助けを借りることで漏れのない確実な内容の文書を準備できます。
行政書士による全国対応サポートで企業年金も安心
熟年離婚に際しては、専門家のサポートを受けながら将来の生活設計を立てることが不可欠です。特に年金のような老後資金に関わる事項は、見逃しや誤解が命取りになりかねません。最後に、行政書士による書類作成支援の利点と全国対応のサービスについて説明し、企業年金を含む離婚後の金銭的安心を確保するポイントを述べます。
行政書士による離婚協議書作成支援
行政書士は離婚協議書を含めた契約書の作成を専門的にサポートできる国家資格者です。夫婦間で決まった合意内容を法律用語を用いて漏れなく文書化し、公正証書にするための下準備となる離婚協議書を整えることで、後日のトラブルを予防します。
特に企業年金のように分割方法が複雑になりがちな項目も、行政書士に依頼すれば適切な表現や金額の明示によって明確な合意内容を文書に残すことができます。行政書士は当事者それぞれの意向を丁寧にヒアリングし、双方にとって公平な財産分与につながる離婚協議書作成を支援します。
なお、行政書士は裁判所での代理権や当事者間の交渉権は持ちませんが、協議離婚の範囲であれば法律実務の専門家として十分に頼ることができ、比較的手頃な費用で相談に乗ってもらえる点もメリットです。
離婚給付契約公正証書の作成サポート
離婚協議書で合意した企業年金等の金銭支払いの約束は、公正証書にしておくことで一層の安心を得られます。行政書士は、公正証書に盛り込む条項の案文作成や、公証役場との打ち合わせ・日程調整なども含めた包括的なサポートを提供しています。
離婚給付契約公正証書として作成しておけば、将来の企業年金受給時に発生する支払いも確実に履行させる強制力が生まれます。専門家のサポートのもと公正証書化しておけば、万一の際に速やかに強制執行手続きを取れるため、金銭面でのリスク管理策として極めて有効です。公証人との打ち合わせには依頼者本人も出向く必要がありますが、行政書士が同行することで安心して手続きを進めることができます。
全国対応の相談サービスで安心
当事務所は、熟年離婚に関する相談は、日本全国どこからでも可能です。このように多くの行政書士はメールや電話相談を通じて全国対応しているところも多く、遠方にお住まいの場合でも実際に事務所へ足を運ばなくても手続きを完了することも可能です。
企業年金を含む財産分与や年金分割の経験が豊富な専門家に依頼すれば、地域を問わず質の高いサポートが受けられるでしょう。離婚後の人生設計は一人で悩まず、全国対応の行政書士サービスを活用して、安心できる離婚手続きを進めることが大切です。
熟年離婚による協議書・公正証書の作成はお任せください
退職後の生活設計や年金・財産分与をめぐって熟年離婚を選択される方が増えています。長年連れ添ったご夫婦の離婚だからこそ、取り決めるべき金銭面の内容は多岐にわたり、特に「企業年金」や「退職金」など将来の生活資金に関わる項目は慎重に整理しておく必要があります。
当事務所では、協議離婚に必要な離婚協議書の作成や、公正証書化による強制執行力の確保を全国対応でサポートしています。ご相談内容を丁寧にヒアリングし、ご夫婦双方が納得できる形での文書化をお手伝いします。
特に次のようなお悩みをお持ちの方はぜひご相談ください。
- 企業年金や退職金の取り扱いをどう分けたらいいか分からない
- 離婚後の年金や生活資金が不安なので、きちんと取り決めたい
- 将来の支払いについて口約束だけでは不安が残る
- 作成した協議書に法的効力を持たせたい(強制執行を視野に)
- 書類の内容や言い回しが自分ではうまく整理できない
- 遠方であっても、信頼できる専門家に相談したい
サービスの特徴
きめ細やかな対応
ご依頼者様のご状況に合わせた、離婚協議書や公正証書を作成いたします。これまでに、ネット上のサンプルやテンプレートでは対応できないような難易度の高い離婚協議書や公正証書の作成も対応させていただいた実績があります。
柔軟な相談や業務の対応
対面、電話、オンラインなど、お客様のご都合に合わせた相談方法をご用意しております。さらに、当事務所では離婚協議書の作成に加え、公正証書の作成も取り扱っております。公正証書の作成については、全国的に対応しています。
明確な料金体系
事前にお客様のご状況をヒアリングした上で、サービス内容と料金の詳細をお伝えしますので、料金体系は明瞭にさせていただいております。
全国対応
当事務所は大阪市に事務所がありますが、離婚協議書や公正証書の作成については、大阪府、兵庫県、奈良県を中心に全国からご依頼を承っております。これまでに、東京都や神奈川県、広島県、沖縄県など幅広くご依頼を承ってまいりました。
離婚協議書作成の流れ
- 初回相談
まずは、電話や問い合わせフォームよりご連絡ください。お客様の状況をヒアリングし、離婚協議書作成の記載内容などをお伺いし、御見積やご準備いただく書類等をお伝えいたします。 - 契約締結
上記1によってご依頼いただいた内容で契約締結をします。お支払は契約締結後5日以内とさせていただいております。 - 協議書の草案作成
離婚協議書、公正証書いずれのご依頼であっても、まずは協議書の草案をPDF等のファイルでご確認いただきます。お送りする協議書の草案をご夫婦でご確認ください。 - 協議書の修正等
作成した草案の内容について必要に応じて変更や修正をいたします。その際に、不明点や疑問点があればお気軽にお申し付けください。 - 協議書の製本と郵送
確定いただいた協議書を当事務所で製本し、郵送させていただきます。なお、公正証書とする場合には公証役場にて手続をいたします。
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⑵離婚公正証書の作成サポート (上記⑴を含みます。) | 77,000円~ | 離婚公正証書の作成をサポートさせていただきます。代理調印が必要かなのかどうかで費用が異なります。 |
※)上記金額に実費がかかります。
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